接客での提案の仕方|押し売りに見えない順番
目次
提案の仕方は、やり方を教わらないまま「もう一声かけて」とだけ言われることが多い業務です。言われたとおりに声をかけると、今度は押し売りに見えてしまいます。
この記事では、提案の仕方を順番として整理します。何を言うかより、どの順番で言うかで受け取られ方が変わります。
結論:提案の仕方は「聞いてから」の順番で決まる
提案の仕方でいちばん効くのは、聞いてから出すという順番です。
押し売りに見えるかどうかは、勧める商品の値段でも回数でもありません。お客さまが何も言っていないうちに勧められたかどうかで分かれます。
ポイントはここです。1つ聞いてから出すと、提案は「答え」になります。何も聞かずに出すと、同じ言葉でも「売り込み」に聞こえます。
一般には、声をかける回数を増やす方向で指導されることが多くあります。ただ、回数を増やすほど断られる回数も増え、声をかけること自体が怖くなります。順番を変えるほうが、同じ回数でも通りやすくなります。
提案の仕方の前に|1つだけ聞く
提案の前に聞くのは、1つで足ります。
聞くことが多いと、質問攻めになって答えるのが面倒になります。1つ聞いて、返ってきた言葉のなかから次を決めます。
| 場面 | 聞く言葉の例 |
|---|---|
| 商品を手に取っている | どなたがお使いになりますか |
| 迷っている | どちらでお使いになりますか |
| 探している様子 | お探しのものはございますか |
| 決まっている | ご一緒に使うものはお持ちですか |
4つ目が、提案につながりやすい聞き方です。すでに買うものが決まっている人に「他にいかがですか」と聞くと断られますが、「一緒に使うものをお持ちか」なら、必要かどうかの話になります。
返ってきた言葉を、そのまま使う
聞いたあとに大事なのは、返ってきた言葉を自分の言葉に置き換えないことです。
お客さまが「子どもに使う」と言ったなら、提案のときも「お子さまですと」と返します。「小さいお子さま向けですと」と勝手に足すと、聞いていない条件が混ざります。
一般には、こちらの分類に置き換えて説明してしまいがちです。置き換えた瞬間に、自分の話になります。そこから提案は売り込みに変わります。
出すのは2つまで
提案で出す商品は、2つまでにします。
3つ以上並べると、お客さまは比べることに時間を使い、その場で決められなくなります。決められないと「また来ます」になります。
2つにするときは、違いが1つだけになるように選びます。値段が違うのか、大きさが違うのか、用途が違うのか。2つとも違うと比べようがありません。
| 出し方 | お客さまの受け取り方 |
|---|---|
| 1つだけ | 決めやすいが、選んだ感じがしない |
| 2つ | 違いが分かり、自分で選べる |
| 3つ以上 | 比べきれず、持ち帰りになる |
2つが基本で、迷いが強い人には1つに絞るという使い分けが一般的です。
値段の高いほうから出すか、安いほうから出すか
順番は、先に聞いた条件で決めます。
予算の話が出ていれば、その範囲のものから出します。出ていなければ、真ん中の価格帯から出すのが無難です。
一番高いものから出すと売り込みに見え、一番安いものから出すと「もっといいものがある」と感じさせます。真ん中から始めると、上にも下にも動けます。
提案の仕方でやってはいけないこと
提案で避けたいのは、今の選択を否定する形です。
「それよりこちらのほうが」「それだと合わないかもしれません」と言うと、お客さまはすでに自分で選んだ判断を否定されたことになります。
一般には、足す形にすると受け取られやすくなります。「こちらと一緒に使われる方が多いです」「同じものでこの大きさもございます」と、選択肢を横に置きます。
断られたときに、どう引くか
提案は断られるほうが多くなります。引き方を決めておかないと、次の声かけが怖くなります。
引くときの言葉を1つ決めておきます。「かしこまりました」「失礼いたしました」だけで十分です。理由を聞き返さないでください。
一般に、断られたあとにもう一度出すのは1回までとされています。2回目を出すときは、同じ商品ではなく別の切り口にします。同じものを繰り返すと、断ったことが伝わっていないと感じさせます。
提案しないほうがよい場面
提案の仕方を学ぶと、どの場面でも出したくなります。ただ、出さないほうがよい場面があります。
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 急いでいる | レジで提案されると滞留する |
| 連れがいて相談中 | 会話に割り込む形になる |
| すでに断られた直後 | 聞いていないと受け取られる |
| 子どもだけで来ている | 保護者の判断が入らない |
4つ目は、商品によっては法令の制限がかかります。酒類やたばこ、一部の医薬品などは年齢の確認が必要とされています。年齢の確認の手順は社内の決まりと法令に従い、判断に迷う場合は所轄の警察署や保健所に確かめてください。
商品を知らないと提案できない
提案の仕方の話をすると順番の話になりますが、土台は商品を知っていることです。
知っておくのは全部ではありません。扱っている商品のなかで、よく出る上位20ほどで足ります。この20について、誰向けか、何と一緒に使うか、似た商品との違いは何か、を言えるようにします。
覚え方は、実際に使ってみることです。使えない商品なら、買った人が何と言っていたかを集めます。自分の言葉で言えるほうが伝わります。
言葉の型を3つだけ持つ
提案の仕方を全員でそろえるなら、言葉の型を3つ用意します。
- 一緒に使うものを聞く型
- 違う大きさや量を示す型
- 使う場面を聞いてから出す型
3つ以上作っても覚えられません。新しく入った人には、まず1つ目だけを渡します。1つ目が自然に出るようになってから2つ目を足します。
型を渡したあとに、記録を残す
型を渡しただけでは身につきません。渡した日と、何を渡したかを記録に残します。
記録に残すのは4つです。日付、渡した相手、渡した型、できるようになったかの印。
一般には、教育の記録は法令で求められる業種とそうでない業種があります。接客の提案の型そのものに記録の義務があるわけではありませんが、誰に何を教えたかが分からない状態では、次に何を教えるかが決まりません。
数字で見るときの注意
提案の成果を数字で見るなら、件数ではなく通った割合を見ます。
件数だけを見ると、声をかける回数を増やす方向にしか動きません。回数が増えると断られる回数も増え、店全体の空気が硬くなります。
| 見る数字 | 動き方 |
|---|---|
| 声をかけた件数 | 回数が増える。断られる回数も増える |
| 通った件数 | 通りやすい人に偏る |
| 通った割合 | 順番と言葉を直す方向に動く |
| 1人あたりの点数 | 店全体の結果として見られる |
3つ目と4つ目を組み合わせるのが一般的です。個人の成績として使うと、提案そのものが目的になります。
断られた理由を集める
断られた理由は、その場で聞かずに、あとで思い出して書きます。
集めると、同じ理由が並びます。値段が高い、すでに持っている、使い方が分からない、の3つに集まることが多くあります。
3つ目の「使い方が分からない」が並ぶなら、提案の仕方ではなく、伝え方に原因があります。商品の説明を先に1文入れる形に変えると通ります。
提案の言葉を短くする
提案の仕方でつまずく多くの場面は、言葉が長いことが原因です。
説明を足すほど、お客さまは判断の材料が増えて決めにくくなります。一般には、1回の提案は2文までが目安とされています。1文で何かを示し、1文でその理由を添えます。
長くなるのは、断られるのが怖くて先回りして説明してしまうときです。先回りした説明は、ほとんど聞かれていません。
短くすると、相手が質問する余地ができます。質問が返ってくれば、そこから話が続きます。こちらが全部話してしまうと、返す言葉が「いえ、大丈夫です」しかなくなります。
季節と時間帯で出すものを変える
同じ商品でも、出す時期と時間帯で通り方が変わります。
夕方に来る人と昼に来る人では、買う目的が違います。夕方の来店が多い店なら、その時間に必要になるものから出すほうが通ります。
季節も同じです。季節の変わり目は、去年の同じ時期に何が出たかを見ると当たりが付きます。記録が無い店では、「先週よく出たもの」を朝の申し送りで1つ共有するだけでも変わります。
提案を断られても店の空気を保つ
提案が続けて断られると、店全体の空気が硬くなります。
硬くなると声が小さくなり、声が小さくなるとさらに通らなくなります。この循環に入ると、提案の仕方をいくら直しても戻りません。
一般に効くのは、断られたことを共有する場を作ることです。朝の申し送りで「昨日はこう言って断られた」を1件だけ出します。断られるのが普通だと分かると、個人が抱え込まなくなります。
責任者の側は、通った件数だけを褒めないでください。声をかけた事実と、引き方がよかった場面を拾います。引き方を褒められた人は、次も声をかけます。
提案が向く商品と、向かない商品
同じ店の中でも、提案が通りやすい商品と通りにくい商品があります。
通りやすいのは、今買うものと一緒に使うもの、消耗が早いもの、値段の差が小さいものです。通りにくいのは、本体より高いもの、買う時期が先のもの、好みが強く出るものです。
一般には、通りやすい側を3つか4つ決めて、そこに絞って声をかける形が続きます。全商品を対象にすると、何を出すか毎回考えることになって手が止まります。
まとめ
提案の仕方は、聞いてから出すという順番で決まります。
- 聞くのは1つだけ。返ってきた言葉を置き換えない
- 出すのは2つまで。違いが1つだけになるように選ぶ
- 今の選択を否定せず、横に足す形にする
- 断られたら1回で引く。理由をその場で聞き返さない
- 数字は件数ではなく通った割合で見る
年齢の確認が必要な商品や、資格の要る商品の説明には法令上の決まりがあるとされています。扱いに迷う商品は、社内の担当と、所轄の警察署や保健所に確かめてください。
よくある質問
Q. 何も聞かずに勧めてしまいます。 A. 1つだけ聞く習慣にしてください。「どなたがお使いになりますか」の1文で十分です。聞いてから出すと、同じ言葉でも押し売りに聞こえなくなります。
Q. 何を聞けばよいか分かりません。 A. 使う人、使う場面、一緒に使うものの3つのどれかです。買うものが決まっている人には「ご一緒に使うものはお持ちですか」が通りやすくなります。
Q. いくつ出せばよいですか。 A. 2つまでです。3つ以上並べると比べきれず、持ち帰りになります。迷いが強い人には1つに絞ります。
Q. 2つの選び方が分かりません。 A. 違いが1つだけになるように選んでください。値段か、大きさか、用途か。2つとも違うと比べようがありません。
Q. 高いほうから出すべきですか。 A. 予算の話が出ていなければ真ん中の価格帯からです。上にも下にも動けます。一番高いものから出すと売り込みに見えます。
Q. 断られたあと、気まずくなります。 A. 引くときの言葉を1つ決めておいてください。「かしこまりました」だけで十分です。理由をその場で聞き返さないでください。
Q. もう一度勧めてもよいですか。 A. 1回までです。同じ商品ではなく別の切り口にしてください。同じものを繰り返すと、断ったことが伝わっていないと感じさせます。
Q. 提案しないほうがよい場面はありますか。 A. 急いでいる人、連れと相談中の人、断られた直後の4つです。レジでの提案は後ろのお客さまを待たせます。
Q. 商品を覚えきれません。 A. 全部は要りません。よく出る上位20ほどで足ります。誰向けか、何と一緒に使うか、似た商品との違いは何か、の3つを言えるようにします。
Q. 使ったことのない商品をどう伝えますか。 A. 買った人が何と言っていたかを集めてください。自分の言葉で言えるほうが伝わります。カタログの文章をそのまま言うと硬く聞こえます。
Q. 新しく入った人に何から教えますか。 A. 型を1つだけ渡してください。「ご一緒に使うものはお持ちですか」から始めます。自然に出るようになってから2つ目を足します。
Q. 教えた記録は必要ですか。 A. 日付、相手、渡した型、できるようになった印の4つを残してください。誰に何を教えたかが分からないと、次に教えることが決まりません。
Q. 成果をどう測りますか。 A. 件数ではなく通った割合です。件数だけを見ると、声をかける回数を増やす方向にしか動きません。個人の成績にすると提案が目的になります。
Q. 断られた理由を聞いてよいですか。 A. その場では聞かないでください。あとで思い出して書く形にします。集めると同じ理由が並び、直す場所が見えます。
Q. 「使い方が分からない」と断られます。 A. 提案の仕方ではなく伝え方の問題です。商品の説明を先に1文入れてから出すと通ります。順番を変えるだけで変わります。
Q. 提案が続けて断られて落ち込みます。 A. 断られるのが普通です。朝の申し送りで「昨日はこう言って断られた」を1件出す形にすると、個人で抱えなくなります。
Q. 言葉が長くなってしまいます。 A. 1回の提案は2文までにしてください。1文で示し、1文で理由を添えます。先回りした説明は、ほとんど聞かれていません。
Q. どの商品で提案すればよいですか。 A. 一緒に使うもの、消耗が早いもの、値段の差が小さいものです。通りやすい側を3つか4つ決めて絞ってください。全商品を対象にすると毎回考えることになります。
Q. 本体より高いものを勧めてよいですか。 A. 通りにくい側です。その場では断られ、次の来店で検討されることが多くあります。急がずに、使い方だけ伝えて引くほうが結果につながります。