カスタマーハラスメントとクレームの線引き
目次
カスタマーハラスメントは、お客様からの言動のうち、要求の内容や手段が行き過ぎているものを指します。カスハラと略されることもあります。
店で働いていると、これは正当な指摘なのか、それとも行き過ぎなのかの判断に迷う場面が出てきます。迷っている間に長時間拘束されるのがいちばん消耗する形です。この記事では、線引きの考え方と、線を越えたときにその場でできることを整理します。
結論:カスタマーハラスメントは「要求の中身」か「手段」のどちらかが行き過ぎたもの
カスタマーハラスメントかどうかは、声の大きさだけでは決まりません。一般には、要求の内容が妥当かどうかと、要求を通す手段が相当かどうかの2つで見ます。
ポイントはここです。厳しい言い方でも、内容が正当なら通常のクレームです。逆に、穏やかな口調でも、実現できない要求を長時間繰り返すならカスタマーハラスメントに当たり得ます。口調で判断すると、この2つを取り違えます。
| 通常のクレーム | カスタマーハラスメント | |
|---|---|---|
| 要求の中身 | 店として対応できる範囲 | 対応できない、根拠がない |
| 手段 | 説明、抗議 | 暴言、威圧、長時間の拘束 |
| 目的 | 問題の解決 | 謝罪させること、個人への攻撃 |
| 終わり方 | 対応で終わる | 対応しても終わらない |
カスタマーハラスメントに当たりやすい言動
カスタマーハラスメントとして扱われやすい言動には、型があります。判断に迷ったときの目安として使えます。
- 大声を出す、机を叩く、物を投げる
- 長時間にわたって同じ話を繰り返す
- 土下座や、店頭での謝罪を求める
- 従業員個人の氏名や連絡先を求める
- 交流サイトへの投稿をほのめかして要求を通そうとする
- 対応できないと伝えたあとも、繰り返し来店・架電する
- 身体に触れる、進路をふさぐ
このうち、土下座の強要や、進路をふさぐ行為は、状況によって法に触れる可能性があります。個人で判断せず、責任者に代わる場面になります。
カスタマーハラスメントをめぐる決まりは、店によって違う
カスタマーハラスメントについては、近年、行政と法令の両面で整備が進んでいます。東京都では、全国で初めてカスタマーハラスメント防止に関する条例が定められ、2025年4月に施行されました。自治体によっては同様の条例を設けているところがあります。
国の側でも、事業主にカスタマーハラスメント対策を求める方向で法整備が進められています。具体的にいつから何が義務になるかは、勤務先の就業規則や本部からの案内で確認するのが確実です。この記事の内容と、自店の決まりが違う場合は、自店の決まりが優先します。
働く側として押さえておきたいのは、カスタマーハラスメントへの対応は、個人の我慢で処理するものではなくなってきているという点です。対応を断る、警察に連絡する、といった判断は、店として行うものになります。
カスタマーハラスメントだと感じたとき、その場でできること
カスタマーハラスメントに当たりそうだと感じた場面で、担当者が個人でできることは限られます。できることを先に決めておくと、迷う時間が短くなります。
1人で対応しない
まず人を増やします。1対1の状況をやめるだけで、言動が落ち着くことがあります。呼ぶ相手は責任者が基本ですが、いない時間帯は同僚でも構いません。
場所を変える
他のお客様の目がある場所では、双方が引きづらくなります。事務所や別室に移せるなら移します。ただし、密室に2人きりにならないようにします。
記録する
日時、内容、言われた言葉、対応した人。その場でメモを取ることは、失礼になりません。記録が残っていると、あとで店として判断するときの材料になります。防犯カメラや通話録音がある場合は、その存在を伝えるだけで収まることもあります。
対応を打ち切る判断は、責任者に渡す
「これ以上は対応いたしかねます」と伝えるのは、店としての判断になります。担当者が個人で打ち切ると、あとで別の問題になることがあります。判断できる人に代わるところまでが、一次対応の範囲です。
危険を感じたら警察に連絡する
暴力、脅し、居座り。身の危険がある場面では、警察への連絡をためらわない判断が要ります。これも店として行うものですが、連絡してよいという前提を共有しておくと、その場で動けます。
カスタマーハラスメントを受けたあと、本人をどう戻すか
カスタマーハラスメントで見落とされやすいのが、受けた本人の回復です。強い言葉を受けた直後は、通常の接客に戻れません。
一般には、その場ですぐ売り場に戻さないほうが、あとに残りません。休憩を挟む、持ち場を変える、その日は接客から外す。店の人員によってできることは違いますが、何もしないのが最も残ります。
報告の場では、個人の応対の問題として扱わないことが大事になります。応対のきっかけがあったとしても、行き過ぎた要求は別の問題です。ここを混ぜると、受けた人が言い出せなくなります。
苦手意識が残った場合の戻し方は接客が苦手なときにも書きました。
カスタマーハラスメントと、正当な指摘を取り違えないために
カスタマーハラスメントという言葉が広まると、厳しい指摘まで一括りにしてしまう逆の危険が出ます。ここを取り違えると、改善につながる声を捨てることになります。
見分けるときの問いは3つです。
- 要求の内容は、店として対応できる範囲か
- 対応したあと、話は終わるか
- 求められているのは、問題の解決か、それとも謝る姿か
1と2が「はい」なら、厳しい言い方でも通常のクレームとして扱えます。内容が正当なら、伝え方が強くても指摘として受け止めるのが基本の姿勢になります。
3で「謝る姿」に寄っている場合は、対応しても終わりません。ここが線引きの分かれ目になります。
カスタマーハラスメントを受けやすい場面を知っておく
カスタマーハラスメントは、どの場面でも同じ確率で起きるわけではありません。起きやすい条件があり、知っておくと身構えられます。
| 場面 | 起きやすい理由 |
|---|---|
| 1人での勤務時間 | 周りの目が無く、止める人がいない |
| 閉店間際 | 双方に時間の余裕がない |
| 混雑時の待ち時間 | 不満がたまった状態で接する |
| 規則で断る場面 | 例外を求められやすい |
| 若い担当者が応対 | 押せば通ると見られやすい |
このうち、1人での勤務がいちばん条件として重くなります。応援を呼べない時間帯があるなら、呼べる連絡先を先に確かめておくだけでも違います。
若い担当者や、入って間もない人が狙われやすいのは、判断できないことが見て分かるためです。この場合、本人の応対に問題があったわけではありません。店として、経験の浅い人が1人になる時間を減らすほうが効きます。
規則で断る場面も多くなります。ここは、断る内容が店として決まっているかで変わります。決まっていれば「決まりですので」と言えますが、決まっていないと担当者の判断に見え、交渉の余地があると受け取られます。
カスタマーハラスメントに備えて、店で決めておくこと
カスタマーハラスメントへの対応は、その場の判断でうまくやるものではありません。先に決めておかないと、担当者が個人で抱えます。
決めておきたいのは次の4つです。
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| 呼ぶ相手 | 責任者の連絡先。不在時の代わり |
| 打ち切りの基準 | どの言動が出たら対応を終えるか |
| 打ち切りの言い方 | 誰が、どう伝えるか |
| 受けたあとの扱い | 休憩、持ち場の変更、報告先 |
打ち切りの言い方を決めておくのは、実務としてかなり効きます。「これ以上は対応いたしかねます」を誰がどの段階で言うかが決まっていないと、いつまでも続きます。
記録の形も決めておきます。日時、内容、言われた言葉、対応した人。その場で書けるようにしておくと、あとから思い出して書くより正確に残ります。クレーム対応記録の様式をそのまま使える場合もあります。
受けたあとの扱いを決めておくのも、店としての備えになります。その場ですぐ売り場へ戻さないという一文があるだけで、受けた本人が言い出しやすくなります。
決めた内容は、新しく入った人にも渡します。経験の浅い人ほど受けやすいので、最初に知っておくほうが守りになります。
カスタマーハラスメントと、従業員を守る仕組み
カスタマーハラスメントへの対応は、その場をしのぐだけでは終わりません。同じ相手が繰り返し来る場合があるため、記録と共有が要になります。
残しておきたいのは次の内容です。
| 項目 | 何に使うか |
|---|---|
| 日時と対応した人 | 繰り返しかどうかを見る |
| 言われた内容 | 事実として残す |
| 要求の中身 | 対応できる範囲だったかを判断する |
| こちらの対応 | 何を約束していないかを残す |
| 相手の特徴 | 次に来たときに共有できる |
「何を約束していないか」を書くのは、通常のクレームと同じです。次に対応する人が、前回の続きから始められます。
繰り返しがある場合、店として対応を決められます。対応する人を固定する、複数人で対応する、来店時に責任者へ知らせる。個人が毎回受ける形にしないのが要点です。
深刻な場合は、店として法的な相談に進む選択肢もあります。これは担当者が判断するものではなく、本部や経営者の判断になります。働く側としては、記録を残して共有するところまでが役割です。
相談先が社内に無い、または相談しても変わらない場合は、労働局の相談窓口など外部の窓口もあります。1人で抱えないことが、いちばんの備えになります。
カスタマーハラスメントは、線を先に知っておく
カスタマーハラスメントは、起きてから調べるものではありません。先に線を知っておくと、その場で迷う時間が短くなります。
確かめておきたいのは次の3つです。
- 自分の店では、どの言動が出たら責任者を呼ぶか
- 対応を打ち切る判断は誰がするか
- 受けたあと、誰に報告するか
2が決まっていないと、担当者が個人で打ち切ることになります。これはあとで別の問題になりやすい形です。
決まりが無い場合は、店長に確かめるところから始められます。「決まっていない」と分かること自体が、判断の材料になります。決まっていないなら、迷った時点で人を呼ぶ側に倒せます。
よくある質問
大声を出されたら、それだけでカスハラですか
大声だけでは決まりません。内容が正当で、対応すれば収まるなら通常のクレームとして扱えます。ただし、他のお客様に影響が出ている場合は、場所を変える理由になります。
自分で「これはカスハラです」と言ってもいいですか
その場で言い切ると、話がこじれることがあります。判断を伝えるのは店として行うほうが安全です。担当者としては、人を呼ぶ、記録する、責任者に渡す、の3つで足ります。
記録を取ることを相手に伝えるべきですか
伝えて構いません。「正確に承りたいので記録させていただきます」と言う形なら、通常のクレームでも失礼になりません。記録していると分かると、言動が落ち着くことがあります。
常連のお客様が該当しそうな場合は
関係があるぶん判断しにくくなりますが、線引きの考え方は変わりません。個人で抱えると長引くので、早めに責任者と共有しておくほうが収まります。
電話で長時間になるときは
折り返しの形に切り替えるのが現実的です。「お調べしてこちらからご連絡いたします」と区切ります。電話は記録が残らないので、通話の内容をメモに残すところまでが対応になります。受け方は店舗の電話応対にまとめました。
対応を録音してもいいですか
店として行う場合は、あらかじめ録音している旨を掲示または通知していることが一般的です。個人の判断で録音するかは、店の決まりを確認するほうが安全です。記録を取ること自体は、メモでも十分に役立ちます。
責任者がいない時間帯に起きたら
その場での判断は増やさず、対応を保留にする方向で動きます。「確認のうえ、改めてご連絡いたします」と伝え、連絡先を聞いて終える形にできます。呼べる連絡先を先に確かめておくと、この判断がしやすくなります。
自分が我慢すれば済む話ではないですか
我慢で処理する前提は、店にとっても不利になります。記録が残らないと、繰り返し起きても店として対応できません。受けた事実を残すこと自体が、次の人を守ることにつながります。
判断に迷ううちは、どう動けばいいですか
迷っている段階で人を呼んで構いません。1対1をやめること自体が対応の一部なので、判断が固まるのを待つ必要はありません。
通常のクレームとの見分けがつかないときは
見分けがつかない段階で人を呼んで構いません。判断を確定させてから動く必要はありません。1対1をやめること自体が、どちらの場合でも有効な対応になります。
受けた内容を同僚に話してもいいですか
店として共有する範囲なら問題ありません。繰り返し来る相手であれば、共有しておくほうが次の人を守れます。共有の仕方に決まりがあるかは、店長に確かめます。
まとめ
カスタマーハラスメントは、要求の中身か、要求を通す手段のどちらかが行き過ぎたものです。口調の強さだけでは判断できず、内容が正当なら厳しい言い方でも通常のクレームとして扱えます。
線を越えたと感じたら、1人で対応しない、場所を変える、記録する、責任者に渡す、という順で動けます。対応を打ち切る判断や警察への連絡は、個人ではなく店として行うものです。
決まりは自治体や会社によって違います。東京都では2025年4月に防止条例が施行されており、国の側でも整備が進んでいます。自店の決まりを就業規則や本部の案内で確認しておくと、迷う時間が短くなります。