店内でお客様が倒れたとき|最初の動き
目次
店内でお客様が倒れる、気分が悪くなる、けがをする。頻度は低いのに、起きたときの重さが最も大きい場面です。それなのに、手順を教わっていないまま売り場に立っていることが多くあります。
この記事では、急病やけがが起きたときの最初の動きを整理します。医療の判断はしません。担当者ができること、してはいけないことの線を中心に書きます。
なお、ここに書くのは一般的に案内されている考え方です。自店の決まりと、消防や医療機関の案内が優先します。
結論:最初にやるのは「人を集めること」
急病やけがの場面で、担当者が最初にやるのは手当てではありません。人を集めることです。
理由は単純で、1人では何もできないためです。通報する人、現場に付く人、救急隊を誘導する人、他のお客様に対応する人。役割が分かれていないと、どれも中途半端になります。
ポイントはここです。「誰か来てください」ではなく、名指しで呼びます。「〇〇さん、来てください」と言わないと、全員が他の誰かが行くと思って動きません。
最初の動き:声をかけて反応を見る
倒れている方を見つけたら、まず声をかけて反応があるかを確かめます。肩を軽くたたきながら、「大丈夫ですか」と呼びかけます。
- 反応がある … 話を聞ける。無理に動かさない
- 反応がない … 重い状態の可能性。すぐ人を呼ぶ
反応が無い場合は、迷わず救急車を呼ぶ判断に進みます。担当者が「まだ様子を見よう」と判断する場面ではありません。
反応がある場合も、本人が「大丈夫です」と言ったからといって、そのままにしないほうが安全です。座れる場所へ案内する、水を出す、付き添うといった対応を挟みます。
119番通報の判断
救急車を呼ぶかどうかの判断は、迷ったら呼ぶが基本とされています。呼んでから状態が良くなった場合も、それで問題になることはありません。
一般に、次のような状態は急いで通報する目安として案内されています。
- 意識がない、反応が鈍い
- 呼吸がおかしい、していない
- 大量に出血している
- 強い胸の痛みを訴えている
- けいれんが続いている
- 頭を強く打った
判断に迷うときの相談窓口として、救急安心センター(#7119)が使える地域があります。使えるかどうかは地域によるので、自店の地域で使えるかを確かめておくと選択肢が増えます。
通報するときは、場所を正確に伝えることがいちばん重要です。店名だけでなく住所、階数、入口の場所。電話のそばに住所を貼っておくと、慌てずに伝えられます。
救急隊を待つあいだにやること
通報したあと、到着までにできることがあります。
| やること | 内容 |
|---|---|
| 誘導者を出す | 店の外か入口で待つ |
| 経路を空ける | 台車や什器をどける |
| 本人に付き添う | 1人にしない |
| 情報を集める | 同行者、かかりつけ、服薬 |
| 周囲を整える | 他のお客様の動線を分ける |
誘導者を出すのを忘れがちです。商業施設や複数階の店では、救急隊が入口を探す時間が発生します。1人を外に出しておくだけで、到着から接触までが短くなります。
同行者がいる場合は、本人の情報を聞ける相手になります。持病、かかっている病院、飲んでいる薬。分かる範囲で構いません。
やってはいけないこと
善意でも、状況を悪くする行動があります。
- むやみに動かす … 頭や首を打った可能性がある場面では特に危険です
- 飲食物を口に入れる … 意識がはっきりしない状態では詰まらせる危険があります
- 薬を渡す … 店として渡すものではありません
- 自家用車で送る … 途中で悪化した場合に対応できません
- 人だかりを作る … 空気が悪くなり、本人の負担も増えます
「大丈夫ですよね」と確認を取って終わらせないことも大事です。本人が遠慮して「大丈夫」と言う場面は多く、そのあと悪化することがあります。
医療的な判断は担当者の役割ではありません。迷ったら救急に判断を委ねるのが、結果としていちばん安全な形になります。
けがの場合
転倒、切り傷、やけど、什器との接触。店内の設備が原因の場合は、店の責任が問われる可能性があります。
やることは急病の場合と重なりますが、追加で必要になるものがあります。
- けがの状況と場所を記録する
- 原因になったもの(濡れた床、破損した什器)をそのまま残す
- 写真を撮る(可能なら)
- 同じ危険が続かないよう、その場を封鎖する
- 責任者に即時で伝える
5つ目が最優先です。床が濡れている、什器が壊れているという状態は、次のお客様にも同じことが起きます。対応しながらでも、その場所を通れないようにします。
治療費や補償の話が出た場合、その場で約束しません。店として判断することなので、責任者に渡します。
記録に残すこと
急病やけがは、その場が収まっても必ず記録に残します。
| 項目 | なぜ要るか |
|---|---|
| 日時と場所 | 経緯の確認 |
| 状況 | 何が起きたか |
| 対応した内容 | 誰が何をしたか |
| 通報の有無と時刻 | 時系列の確認 |
| 同行者・連絡先 | 後日の連絡 |
| 原因になったもの | 再発防止 |
後日に連絡が来ることがあります。記録が無いと、何が起きたか説明できません。とくにけがの場合は、時間がたってから申し出があることもあります。
記録は、次に同じ場所で起きるのを防ぐ材料にもなります。同じ場所で転倒が続いているなら、床材や動線に原因があります。
店として準備しておけること
この場面は、起きてから考えると間に合いません。先に用意しておけるものがあります。
- 店の住所を電話のそばに貼る
- 救急箱の場所を全員が知っている
- 休める場所(椅子、バックヤード)を決めておく
- 誰が通報し、誰が誘導するかの役割を決めておく
- AEDの場所を確認しておく(施設内・近隣)
AEDの場所は、商業施設に入っている店なら施設側にあることが多くあります。どこにあるか知らないと、必要な場面で取りに行けません。
役割分担は、人数が少ない時間帯ほど決めておく価値があります。1人体制の時間がある店では、その時間に何が起きたらどうするかを先に決めておきます。
従業員が倒れた場合も、手順は同じ
急病やけがは、お客様だけに起きるものではありません。従業員が倒れる場面でも、最初の動きは同じです。
違うのは、そのあとの手続きです。
| 項目 | 従業員の場合 |
|---|---|
| 連絡先 | 緊急連絡先が登録されている |
| 記録 | 労災の可能性があるので詳細に |
| 報告 | 店長から本部・会社へ |
| 復帰 | 医師の判断を待つ |
業務中のけがや体調不良は、労災に当たる可能性があります。「たいしたことない」と本人が言っても、記録は残します。あとから症状が出た場合、記録が無いと手続きができません。
暑い時期の熱中症は、売り場よりバックヤードや倉庫で起きやすいという面があります。空調が弱く、人目も少ないためです。1人で作業する時間がある店では、定期的に声をかける決まりにできます。
起きたあとに、店として振り返ること
急病やけがが起きたあとは、同じことが繰り返されないかを見ます。
| 見るもの | 分かること |
|---|---|
| 場所 | 同じ場所で続いていないか |
| 時間帯 | 混雑時か、閑散時か |
| 原因 | 設備か、動線か、気候か |
| 対応にかかった時間 | どこで詰まったか |
同じ場所で転倒が続いているなら、床材や段差に原因があります。個人の不注意として処理すると、次も起きます。
対応にかかった時間も材料になります。通報から救急隊の接触までが長かったなら、誘導の仕組みに改善の余地があります。入口が分かりにくい、エレベーターの手配が要る、といった条件は事前に分かります。
振り返りは、責める場ではありません。「誰が悪かったか」ではなく「次にどう動くか」を決める場にしないと、報告そのものが減ります。
急病とけがは、起きる前に決めておくことがある
この場面は、起きてから考えると間に合いません。先に決めておける項目があります。
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| 通報する人 | 誰が電話するか |
| 誘導する人 | 誰が外に出るか |
| 売り場を回す人 | 他のお客様への対応 |
| 住所の掲示 | 電話のそばに貼る |
| 救急箱の場所 | 全員が知っている |
| AEDの場所 | 店内か、施設のどこか |
| 休める場所 | 椅子、バックヤード |
住所の掲示が、いちばん簡単で効きます。通報のとき、場所を正確に伝えるのがもっとも重要なのに、慌てると出てきません。紙が貼ってあれば読むだけです。
AEDの場所は、商業施設に入っている店なら施設側にあることが多くあります。どこにあるか知らないと、必要な場面で取りに行けません。
人数が少ない時間帯の想定も要ります。1人体制のときに何が起きたらどうするかを決めておくと、その場で迷いません。
急病とけがは、周囲への配慮も要る
倒れた方への対応と同時に、周囲のお客様への配慮も必要になります。
| やること | 理由 |
|---|---|
| 人だかりを作らない | 空気が悪くなる。本人の負担 |
| 動線を分ける | 救急隊の経路を確保 |
| 写真を撮らせない | 本人の尊厳 |
| 売り場は回し続ける | 他のお客様も待っている |
人だかりは、善意で集まった人でもできます。「ご協力ありがとうございます、こちらは空けていただけますか」と、丁寧に動線を空けます。
本人のプライバシーにも配慮が要ります。可能なら人目の少ない場所へ移せると、本人の負担が減ります。ただし、頭や首を打った可能性がある場合は動かしません。
売り場の対応も止めません。現場に付く人と、売り場を回す人を分けると、どちらも成立します。全員が集まると、他のお客様が放置されます。
対応が終わったあとは、居合わせたお客様にもひと言あると印象が変わります。「お騒がせいたしました」で足ります。
急病の対応は、経験がないほど手順が要る
急病やけがは頻度が低いぶん、経験で覚えることができません。だからこそ、手順が要ります。
頻度の高い業務は、繰り返すうちに身につきます。レジ、品出し、接客。間違えても次があります。
一方、急病は数年に一度しか起きないことがあります。そのとき初めて対応することになり、しかもやり直しがききません。
だから、この業務だけは紙に書いて置いておく価値が高くなります。通報の手順、住所、誰を呼ぶか、AEDの場所。覚えていなくても、読めば動けます。
年に一度でも、手順を読み合わせる機会があると違います。防災訓練と同じ考え方で、実際にやってみると分かることが出てきます。
急病への備えは、店の外とも関わる
急病やけがへの備えは、店の中だけで完結しません。
商業施設に入っている店では、施設の防災センターや医務室が関わります。通報の窓口が施設側に一本化されていることもあるので、自店の手順を確かめておきます。
近隣の医療機関の場所も、知っておくと役に立ちます。軽度の場合、救急車を呼ばずに案内する判断もあり得ます。ただし、判断は店として行うものなので、担当者が決める話ではありません。
AEDの場所も、店内に無ければ近隣になります。施設のどこにあるかを確かめておくと、必要な場面で取りに行けます。
こうした情報は、紙にして電話のそばに置いておくのがいちばん確実です。
よくある質問
救急車を呼ぶか迷います
迷ったら呼ぶが基本とされています。地域によっては#7119で相談できます。担当者が「様子を見よう」と判断する場面ではありません。
本人が大丈夫だと言っています
遠慮して言う場面が多くあります。座れる場所へ案内する、付き添うといった対応は続けたほうが安全です。
水を飲ませてもいいですか
意識がはっきりしない状態では詰まらせる危険があります。はっきりしている場合も、店として渡すかは決まりを確かめます。
けがの補償を求められました
その場で約束しません。店として判断することなので、責任者に渡します。記録と写真を残しておくと、あとの判断材料になります。
他のお客様の対応はどうしますか
役割を分けます。現場に付く人と、売り場を回す人を別にすると、どちらも止まりません。人だかりができないよう動線を分けます。
従業員が倒れた場合も同じですか
最初の動きは同じです。業務中のけがや体調不良は労災に当たる可能性があるので、本人が大丈夫と言っても記録を残します。
熱中症はどこで起きやすいですか
売り場よりバックヤードや倉庫で起きやすい面があります。空調が弱く人目も少ないので、1人作業の時間は声をかける決まりにできます。
1人体制のときに起きたら
先に決めておきます。誰に連絡するか、売り場をどうするか。その場で考えると間に合いません。
周りに人が集まってしまいました
丁寧に動線を空けます。「こちらは空けていただけますか」と伝えます。救急隊の経路にもなります。
救急車を呼んだあと、何をすればいいですか
誘導者を出すのを忘れないようにします。到着から接触までの時間が短くなります。
対応したあと動揺しています
その場ですぐ通常業務に戻さないのが望ましい形です。休憩を挟む、持ち場を変えるといった対応を店に伝えて構いません。
記録はどこまで書きますか
日時、場所、状況、対応、通報の時刻まで。あとから連絡が来る可能性があるので、時系列が分かる形にします。
まとめ
店内での急病やけがは、最初にやるのが手当てではなく人を集めることです。名指しで呼ばないと、全員が他の誰かが行くと思って動きません。
反応が無い場合は迷わず通報します。判断に迷うときは、地域によっては#7119で相談できます。通報では場所を正確に伝えることがいちばん重要で、住所を電話のそばに貼っておくと慌てません。
むやみに動かす、飲食物を口に入れる、自家用車で送る。どれも善意でも危険です。医療的な判断は担当者の役割ではないので、迷ったら救急に委ねます。けがの場合は、原因になったものをそのまま残し、その場を通れないようにします。